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069 題知(だいし)らず 春霞(はるがすみ) 棚引(たなび)く山(やま)の 櫻花(さくらばな) 移(うつ)ろはむとや 色變(いろか)はり行(ゆ)く
題不知
春霞層湧出 十里瀰漫滿山間 遠觀山櫻花 可是已然移落乎 今望花色異於昔 佚名 069
070 題知(だいし)らず 待(ま)てと云(い)ふに 散(ち)らでしとまる 物(もの)ならば 何(なに)を櫻(さくら)に 思(おも)ひまさまし
題不知
請君莫凋零 能納吾言緩謝者 此外復何求 櫻花移落瞬轉俄 何以吾人甚憐之 佚名 070
071 題知(だいし)らず 殘(のこ)り無(な)く 散(ち)るぞめでたき 櫻花(さくらばな) 有(あ)りて世中(よのなか) 果(はて)の憂(う)ければ
題不知
片華不殘留 一皆散盡磊落者 櫻花美所以 縱令長延存世中 其終末果令人憂 佚名 071
072 題知(だいし)らず 此里(このさと)に 旅寢(たびね)しぬべし 櫻花(さくらばな) 散(ち)りの紛(まが)ひに 家路忘(いへぢわす)れて
題不知
遊獵至此里 今夜恐將留宿之 滿面遍櫻花 散落吹雪幾繽紛 迷人失道忘歸途 佚名 072
073 題知(だいし)らず 空蟬(うつせみ)の 世(よ)にも似(に)たるか 花櫻(はなざくら) 咲(さ)くと見(み)しまに 且(か)つ散(ち)りにけり
題不知
浮生猶若夢 櫻花亦似此儚世 櫻花也櫻花 此刻方見綻咲顏 轉瞬之間散卻盡 佚名 073
074 僧正遍昭(そうじやうへんぜう)に詠(よ)みて贈(おく)りける 櫻花(さくらばな) 散(ち)らば散(ち)らなむ 散(ち)らずとて 故里人(ふるさとひと)の 來(き)ても見無(みな)くに
贈僧正遍昭而詠
絢爛櫻花者 汝今當落直須落 汝今縱不落 故里昔人仍不來 汝咲無以令其賞 惟喬親王 074
075 雲林院(うりんゐん)にて、櫻花(さくらのはな)の散(ち)りけるを見(み)て詠(よ)める 櫻散(さくらち)る 花(はな)の所(ところ)は 春(はる)ながら 雪(ゆき)ぞ降(ふ)りつつ 消(き)えがてにする
於雲林院,見櫻花舞落而詠
吹雪櫻散華 落花名勝雲林院 時值春日中 落花如雪降紛紛 漫地皓白雪不消 承均法師 075
076 櫻花(さくらのはな)の散(ち)り侍(はべり)けるを見(み)て詠(よ)みける 花散(はなち)らす 風(かぜ)の宿(やど)りは 誰(たれ)か知(し)る 我(われ)に教(をし)へよ 行(ゆ)きて恨(うら)みむ
侍見櫻花散落而詠
風吹櫻散華 飄零拂遠隨風去 誰知風居所 願將彼宿喻於我 今將往去訴吾恨 素性法師 076
077 雲林院(うりむゐん)にて櫻花(さくらのはな)を詠(よ)める 去來櫻(いざさくら) 我(われ)も散(ち)りなむ 一盛(ひとさか)り 有(あ)りなば人(ひと)に 憂(う)きめ見(み)えなむ
於雲林院詠櫻花
去來可怜櫻 吾欲猶汝早散華 諸行律無常 一時雖盛後必衰 苟活憂姿令人見 承均法師 077
078 相(あ)ひ知(し)れりける人(ひと)の參(まう)で來(き)て、歸(かへ)りにける後(のち)に、詠(よ)みて花(はな)に插(さ)して遣(つか)はしける 一目見(ひとめみ)し 君(きみ)もや來(く)ると 櫻花(さくらばな) 今日(けふ)は待(ま)ち見(み)て 散(ち)らば散(ち)らなむ
識人來訪歸後,詠詩插花遣人贈之
一見惚鐘情 心念思君今將來 櫻花常盛開 今日不散待其至 果不來者散且散 紀貫之 078
079 山櫻(やまのさくら)を見(み)て詠(よ)める 春霞(はるかすみ) 何隱(なにかく)すらむ 櫻花(さくらばな) 散(ち)る間(ま)をだにも 見(み)るべき物(もの)を
見山櫻而詠
春霞漫山間 霞氣何故蔽櫻花 櫻花不久長 須於散盡轉瞬間 欲得昔時觀翫矣 紀貫之 079
080 心地損(ここちそこ)なひて煩(わづら)ひける時に、風(かぜ)に當(あた)らじとて、下(おろ)し籠(こ)めてのみ侍(はべ)りける間(あひだ)に、折(を)れる櫻(さくら)の散(ち)り方(がた)になれりけるを見(み)て詠(よ)める 垂(た)れ籠(こ)めて 春(はる)の行方(ゆくへ)も 知(し)らぬ間(ま)に 待(ま)ちし櫻(さくら)も 移(うつ)ろひにけり
惱病煩心,不得當風,欲垂廉以幽居時,見折櫻方散而詠
遮風居垂簾 不知春日何處去 心焦待盛櫻 冀病癒後可翫者 俄然遷轉已移落 藤原因香朝臣 080
081 春宮雅院(とうぐうがゐん)にて、櫻花(さくらのはな)の御溝水(みかはみづ)に散(ち)りて流(なが)れけるを見(み)て詠(よ)める 枝(えだ)よりも 空(あだ)に散(ち)りにし 花(はな)なれば 落(お)ちても水(みづ)の 泡(あわ)とこそ成(な)れ
於東宮雅院,見櫻散落御溝,順水流去而詠
自梢散其華 虛渺幻夢灑空中 櫻花如此者 落花流水御溝間 空成泡沫稍即逝 菅野高世 081
082 櫻花(さくらのはな)の散(ち)りけるを詠(よ)みける 如(こと)ならば 咲(さ)かずやはあらぬ 櫻花(さくらばな) 見(み)る我(われ)さへに 靜心無(しづこころな)し
詠櫻花散華
其終必散者 不若當初不咲哉 櫻花無常在 觀之我心亦騷動 何以靜心安其在 紀貫之 082
083 櫻(さくら)の如(ごと)、とく散(ち)る物(もの)は無(な)し、と人(ひと)の言(い)ひければ詠(よ) める 櫻花(さくらばな) とく散(ち)りぬとも 思(おも)ほえず 人(ひと)の心(こころ)ぞ 風(かぜ)も吹(ふ)きあへぬ
聞人曰:「早散猶櫻花者,未有之。」而詠
櫻花雖絢爛 吾不以為其謝早 須臾轉俄間 易改之最是人心 不待風吹瞬自變 紀貫之 083
084 櫻花(さくらのはな)の散(ち)るを詠(よ)める 久方(ひさかた)の 光長閑(ひかりのど)けき 春(はる)の日(ひ)に 靜心無(しづこころな)く 花(はな)の散(ち)るらむ
詠櫻散華
朝陽懸虛空 閑日高照暖世間 此時雖春日 櫻花俄遷心無靜 愁帶哀思散儚華 紀友則 084
085 春宮帶刀(とうぐうのたちはき)の陣(ぢん)にて、櫻花(さくらのはな)の散(ち)るを詠(よ)める 春風(はるかぜ)は 花(はな)の邊(あた)りを 避(よ)きて吹(ふ)け 心(こころ)づからや 移(うつ)ろふと見(み)む
於東宮帶刀陣,詠櫻散華
春風雖和煦 只望汝將避花邊 可知櫻花者 所以移落非由衷 殆是東風拂落矣 藤原好風 085
086 櫻(さくら)の散(ち)るを詠(よ)める 雪(ゆき)とのみ 降(ふ)るだにあるを 櫻花(さくらばな) 如何(いか)に散(ち)れとか 風(かぜ)の吹(ふ)くらむ
詠櫻散
櫻花如雪降 無風自落令人惜 可怜也櫻花 何以移落衰去者 當是春風吹落乎 凡河內躬恒 086
087 比叡(ひえ)に登(のぼ)りて、歸(かへ)り詣(まう)できて詠(よ)める 山高(やまたか)み 見(み)つつ我(わ)が來(こ)し 櫻花(さくらばな) 風(かぜ)は心(こころ)に 任(まか)すべら也(なり)
登比叡山,歸時所詠
山高路且遙 枝不得折僅得觀 每來見櫻花 不應任風隨心拂 掃落花兮不能賞 紀貫之 087
088 題知(だいし)らず 春雨(はるさめ)の 降(ふ)るは淚(なみだ)か 櫻花(さくらばな) 散(ち)るを惜(を)しまぬ 人(ひと)しなければ
題不知
春雨之所降 其是惜花人淚乎 可怜也櫻花 俄遷移落散櫻華 豈有人不惜之乎 大伴黑主 088
089 亭子院歌合(ていじゐんのうたあはせ)の歌(うた) 櫻花(さくらばな) 散(ち)りぬる風(かぜ)の 餘波(なごり)には 水無(みづな)き空(そら)に 浪(なみ)ぞ立(た)ちける
亭子院歌合歌
櫻花舞落者 拂華之風留餘韻 餘波所蕩漾 無水之空畫漣漪 虛空無水浪自起
紀貫之 089
090 奈良帝(ならのみかど)の御歌(おほんうた) 故里(ふるさと)と 成(な)りにし奈良(なら)の 都(みやこ)にも 色(いろ)は變(か)はらず 花(はな)は咲(さ)きけり
奈良帝御歌
舉世遷平安 奈良如今成故里 舊都奈良者 人去樓空事已非 唯有花咲色不變
紀貫之(擬平城帝御心所作) 090
091 春歌(はるのうた)とて詠(よ)める 花(か)の色(いろ)は 霞(かすみ)に籠(こ)めて 見(み)せずとも 香(か)をだ盜(ぬす)め 春(はる)の山風(やまかぜ)
詠春歌
山間櫻盛開 花色不見隱霞中 舉目雖不見 春日山風掠其間 盜來花香令人吟
良岑宗貞 091
092 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 花木(はなのき)も 今(いま)は掘(ほ)り植(う)ゑじ 春(はる)たてば 移(うつ)ろふ色(いろ)に 人習(ひとなら)ひけり
寬平御時后宮歌合時歌
雖說花木咲 思其謝後無人問 不忍掘植之 至春移落花褪色 人倣習之性無常
素性法師 092
093 題知(だいし)らず 春色(はるのいろ)の 至(いた)り至(いた)らぬ 里(さと)は有(あ)らじ 咲(さ)ける咲(さ)かざる 花(はな)の見(み)ゆらむ
題不知
一眼望春色 豈有春光不至者 然吾望櫻花 花開花落並有之 里咸春來何此異 佚名 070
094 春歌(はるのうた)とて詠(よ)める 三輪山(みわやま)を しかも隱(かく)すか 春霞(はるがすみ) 人(ひと)に知(し)られぬ 花(はな)や咲(さ)くらむ
詠春歌
三輪御諸岳 春霞層湧蔽神山 無人能知悉 霞奧所遮春櫻者 方今幽然盛開歟
紀貫之 094
095 雲林院親王(うりむゐんのみこ)の元(もと)に、花見はなみに北山(きたやま)の邊(ほとり) に罷(まか)れりける時に詠(よ)める 去來今日(いざけふ)は 春(はる)の山邊(やまべ)に 混(ま)じりなむ 暮(く)れなば無(な)げの 花(はな)の影(かげ)かは
於雲林院親王處,為賞花而罷至北山邊陲時所詠
去來矣今日 迎春入山步小徑 當日夕暮者 花雖一時不久長 叢影是我安身宿
素性法師 095
096 春歌(はるのうた)とて詠(よ)める 何時迄(いつまで)か 野邊(のべ)に心(こころ)の 在所離(あくが)れむ 花(はな)し散(ち)らずは 千代(ちよ)も經(へ)ぬべし
詠春歌
至於何時者 吾心終能只依戀 不捨離野邊 如其群花果不散 縱過千代不忍離
素性法師 096
097 題知(だいし)らず 春如(はるごと)に 花(はな)の盛(さか)りは ありなめど 逢(あ)ひ見(み)む事(こと)は 命(いのち)なりけり
題不知
如春臨至者 妍花必有盛開時 人間接不定 無人終得逢花否 一委命運別無他
佚名 097
098 題知(だいし)らず 花(はな)の如(ごと) 世(よ)の常(つね)ならば 過(す)ぐしてし 昔(むかし)は又(また)も 歸(かへ)りきなまし
題不知
花開年復年 若此猶世常理者 今憶昔盛時 吾冀如花復當年 似其每年盛且盛
佚名 098
099 題知(だいし)らず 吹(ふ)く風(かぜ)に 誂(あつら)へ作(つく)る 物(もの)ならば 此一本(このひともと)は 避(よ)きよと言(い)はまし
題不知
吹風雖無心 吾人一事冀相求 如得聽聞者 唯此一本可怜瑛 汝可避之旁吹乎
佚名 099
100 題知(だいし)らず 待(ま)つ人(ひと)も 來(こ)ぬ者故(ものゆゑ)に 鶯(うぐひす)の 鳴(な)きつる花(はな)を 折(を)りてける哉(かな)
題不知
苦思懷傷感 久待之人終不來 蓋是緣此衷 黃鶯啼春立花梢 故折其枝自憐哉
佚名 100
101 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 咲(さ)く花(はな)は 千草(ちくさ)ながらに 空(あだ)なれど 誰(だれ)かは春(はる)を 恨(うら)みはてたる
寬平御時后宮歌合時歌
千草百咲花 雖盛無一不凋零 人心亦如之 轉瞬之間已移易 誰能恨春令花落
藤原興風 101
102 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 春霞(はるがすみ) 色(いろ)の千草(ちくさ)に 見(み)えつるは 棚引(たなび)く山(やま)の 花(はな)の影(かげ)かも
寬平御時后宮歌合時歌
春霞漫山間 觀其猶若見百花 千草織萬色 棚引高山咲花草 千彩春霞作花影
藤原興風 102
103 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 霞立(かすみた)つ 春(はる)の山邊(やまべ)は 遠(とほ)けれど 吹(ふ)きくる風(かぜ)は 花(はな)の香(か)ぞする
寬平御時后宮歌合時歌
彩霞群湧立 彌漫春之山邊者 其處雖遙遠 東風吹拂越山間 攜來花香告春意
在原元方 103
104 移(うつ)ろへる花(はな)を見(み)て詠(よ)める 花見(はなみ)れば 心(こころ)さへにぞ 移(うつ)りける 色(いろ)には出(いで)じ 人(ひと)もこそ知(し)れ
見花之移落而詠
今見花失色 吾心浮動恐將易 隨花移落者 惟心所變色不出 恐己心變為人知
凡河內躬恒 104
105 題知(だいし)らず 鶯(うぐひす)の 鳴(な)く野邊每(のべごと)に 來(き)て見(み)れば 移(うつ)ろふ花(はな)に 風(かぜ)ぞ吹(ふ)きける
題不知
鶯惜春將逝 野邊每聞其哀啼 來訪見之者 百花移落嘆無常 一隨風吹散哀愁
佚名 105
106 題知(だいし)らず 吹(ふ)く風(かぜ)を 鳴(な)きて恨(うら)みよ 鶯(うぐひす)は 我(われ)やは花(はな)に 手(て)だに觸(ふ)れたる
題不知
風吹拂花落 鶯怨散花啼鳴泣 百花雖散盡 吾人之手未觸之 何怨我令花移落
佚名 106
107 題知(だいし)らず 散(ち)る花(はな)の 鳴(な)くにし留(と)まる 物(もの)ならば 我鶯(われうぐひす)に 劣(おと)らましやは
題不知
鶯悲散花者 欲留其花嘯哀鳴 如得留花在 吾亦欲哭嘯悲啼 其聲淒厲豈劣鶯
典侍洽子朝臣 藤原洽子 106
108 仁和中將御息所(にんなのちゅうじゃう)の家(いへ)に歌合(うたあは)せむとて、しける時(とき)に詠(よ)みける 花(はな)の散(ち)る 事(こと)や侘(わび)しき 春霞(はるがすみ) たつたの山(やま)の 鶯(うぐひす)の聲(こゑ)
於仁和帝御代中將之御息所家,仰召歌合,為之時所詠
見花俄移落 哀憐其衰心難定 瀰漫也春霞 湧立龍田山之中 鶯悲啼兮今可聞
藤原後蔭 108
109 鶯(うぐひす)の鳴(な)くを詠(よ)める 木傳(こづた)へば 己(おの)が羽風(はかぜ)に 散花(ちるはな)を 誰(たれ)に負(おほ)せて 幾許鳴(ここらな)くらむ
詠鶯鳴
鶯竄林木間 己身搏羽發勁風 令花散華者 欲令誰人負其業 幾許悲鳴探兇嫌
素性法師 109
110 鶯(うぐひす)の花木(はなのき)にて鳴(な)くを詠(よ)める 驗無(しるしな)き 音(ね)をも鳴(な)く哉(かな) 鶯(うぐひす)の 今年(ことし)のみ散(ち)る 花(はな)なら無(な)くに
詠鶯鳴花木上
既知空徒勞 汝仍不捨鳴泣哉 哀嘆春鶯矣 花開花落每年有 移落非獨只今年
凡河內躬恒 110
111 題知(だいし)らず 駒並(こまな)めて 去來見(いざみ)に行(ゆ)かむ 故里(ふるさと)は 雪(ゆき)とのみこそ 花(はな)は散(ち)るらめ
題不知
乘駒並一列 去來賞花出京極 歸至舊都者 散花飄零似吹雪 紛紛舞降映眼前
佚名 111
112 題知(だいし)らず 散花(ちるはな)を 何(なに)か恨(うら)みむ 世中(よのなか)に 我(わ)が身(み)も共(とも)に あらむ物(もの)かは
題不知
散花零眼前 雖感傷兮有何恨 浮生世間中 我身與花皆過客 孰能長青常磐在
佚名 112
113 題知(だいし)らず 花(はな)の色(いろ)は 移(うつ)りにけりな 徒(いたづら)に 我(わ)が身世(みよ)にふる ながめせしまに
題不知
花色雖多彩 時節遞嬗本無常 徒有空悲感 此身形貌隨年老 虛眺長雨摧花落
小野小町 113
114 仁和中將御息所(にんなのちゅうじゃう)の家(いへ)に歌合(うたあは)せむとしける時(とき)に詠(よ)める 惜(を)しと思(おも)ふ 心(こころ)は絲(いと)に 縒(よ)られなむ 散花每(ちるはなごと)に 貫(ぬ)きて留(とど)めむ
於仁和帝御代中將之御息所家歌合時所詠
心惜花謝早 今縒此念紡作絲 取此心思綾 悉貫散花串絲上 掛上枝頭留花形
素性法師 114
115 志賀山越(しがのやまご)えに女(をうな)の多(おほ)く逢(あへ)りけるに、詠(よ)みて遣(つか)はしける 梓弓(あづさゆみ) 春(はる)の山邊(やまべ)を 越來(こえく)れば 道(みち)も避(あ)りあへず 花(はな)ぞ散(ち)りける
越志賀山時,偶遇眾女而詠以贈之
梓弓張其絃 長閑春日越山邊 來此山道者 花散滿地遍處在 欲避道行不得隙
紀貫之 115
116 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 春(はる)の野(の)に 若菜摘(わかなつま)むと 來(こ)しものを 散(ち)りかふ花(はな)に 道(みち)は惑(まど)ひぬ
寬平御時后宮歌合時歌
春日至野邊 欲摘野菜而來者 事不如所期 豈知散花遍滿地 惑道迷途暮終日
紀貫之 116
117 山寺(やまでら)に詣(まう)でたりけるに詠(よ)める 宿(やどり)して 春(はる)の山邊(やまべ)に 寢(ね)たる夜(よ)は 夢(ゆめ)の內(うち)にも 花(はな)ぞ散(ち)りける
詣山寺而詠
今為詣山寺 春日借宿在山邊 寢泊夜中者 夢中景色亦散華 滿佈遍地猶晝見
紀貫之 117
118 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 吹(ふ)く風(かぜ)と 谷(たに)の水(みづ)とし なかりせば 深山(みやま)が暮(く)れの 花(はな)を見(み)ましや
寬平御時后宮歌合時歌
若無風吹落 或無谷水流落花 人豈能知悉 花開深山雲中嶺 孤方自賞無人知
紀貫之 118
119 志賀(しが)より歸(かへ)りける女共(をうなども)の、花山(くわざん)に入(い)りて藤花(ふぢのはな)の下(もと)に立寄(たちよ)りて、歸(かへ)りけるに詠(よ)みて贈(おく)りける 餘所(よそ)に見(み)て 歸(かへ)らむ人(ひと)に 藤花(ふぢのはな) 這(は)ひ纏(まつ)はれよ 枝(えだ)は折(を)るとも
女郎等歸自志賀,入花山寺,立於藤花之下而歸,詠歌贈之
餘光稍瞥見 無心翫花將歸者 藤花當伸蔓 纏縛責其不識趣 縱令枝折無所惜
僧正遍昭 119
120 家(いへ)に藤花(ふぢのはな)の咲(さ)けりけるを、人(ひと)の立(た)ち止(と)まりて見(み)けるを詠(よ)める 我(わ)が屋戶(やど)に 咲(さ)ける藤波(ふぢなみ) 立(た)ち返(かへ)り 過(す)ぎがてにのみ 人(ひと)の見(み)るらむ
見行人佇眺吾家藤花綻放而詠
吾屋戶庭間 藤花滿開猶紫浪 浪起後浪至 人佇宿前翫花美 流連忘返久駐留
凡河內躬恒 120
121 題知(だいし)らず 今(いま)もかも 咲(さ)き匂(にほ)ふらむ 橘(たちばな)の 小島(こじま)の崎(さき)の 山吹花(やまぶきのはな)
題不知
今亦猶往昔 一展咲顏好風光 昔日遊橘島 小島崎上山吹花 今日逢時盛滿開
佚名 121
122 題知(だいし)らず 春雨(はるさめ)に 匂(にほ)へる色(いろ)も 飽(あ)か無(な)くに 香(か)さへ懷(なつ)かし 山吹花(やまぶきのはな)
題不知
春雨淋濡之 其色倍鮮增艷麗 見之久不膩 花色之外花香者 亦感銘心山吹花
佚名 122
123 題知(だいし)らず 山吹(やまぶき)は 文無(あやな)な咲(さ)きそ 花見(はなみ)むと 植(う)ゑけむ君(きみ)が 今宵來無(こよひこな)くに
題不知
山吹也山吹 事雖無理有相求 還請暫勿咲 為能翫花同植者 今宵不來吾空閨
佚名 123
124 吉野河畔(よしのがはのほとり)に山吹(やまぶき)の咲(さ)けりけるを詠(よ)める 吉野河(よしのがは) 岸(きし)の山吹(やまぶき) 吹(ふ)く風(かぜ)に 底(そこ)の影(かげ)さへ 移(うつ)ろひにけり
詠吉野河畔山吹咲
水江吉野川 山吹遍生河岸畔 風吹拂花落 岸上山吹花飄零 水中倒影亦散華
紀貫之 124
125 題知(だいし)らず 蛙鳴(かはづな)く 井手(ゐで)の山吹(やまぶき) 散(ち)りにけり 花(はな)の盛(さか)りに 逢(あ)は益物(ましもの)を
此歌(このうた)は、或人曰(あるひとのいは)く:「橘清友(たちばなのきよとも)が歌也(うたなり)。」
題不知
河鹿蛙鳴啼 井手里間山吹零 只恨來時晚 早知如此既當初 來訪宜當花盛時
此歌者,或人曰:「橘清友歌也。」 佚名 125
126 春歌(はるのうた)とて詠(よ)める 思(おも)ふどち 春(はる)の山邊(やまべ)に うち群(む)れて 其處(そこ)とも云(い)はぬ 旅寢(たびね)してしか
詠春歌
知己親友等 春日出遊山簏邊 結伴並成群 所往別無執意處 只望悠閒旅寢矣
素性法師 126
127 春(はる)の疾(と)く過(す)ぐるを詠(よ)める 梓弓(あづさゆみ) 春立(はるた)ちしより 年月(としつき)の 射(い)るが如(ごと)くも 思(おも)ほゆる哉(かな)
詠春疾逝
每催梓弓張 張弦引射又立春 吾常有所思 年月紛迅不待人 時來逝往如勁矢
凡河內躬恒 127
128 彌生(やよひ)に鶯(うぐひす)の聲(こゑ)の久(ひさ)しう聞(き)こえざりけるを詠(よ)める 鳴(な)き留(と)むる 花(はな)し無(な)ければ 鶯(うぐひす)も 果(は)ては物憂(ものう)く 成(な)りぬべらなり
彌生三月,久不聞鶯鳴而詠
鶯鳴欲留花 百花無意仍凋零 苦心春鶯者 物憂操心無回報 其果厭鳴停啼矣
紀貫之 128
129 彌生(やよひ)の晦方(つごもりがた)に、山(やま)を越(こ)えけるに、山河(やまがは)より花(はな)の流(なが)れけるを詠(よ)める 花散(はなち)れる 水(みづ)の隨(まにま)に 尋(と)めくれば 山(やま)には春(はる)も 無(な)く成(な)りにけり
彌生月晦越山時,見落花流山河而詠
落花為水流 隨水溯溪逆流上 欲訪春蹤者 山中百花早已逝 春意不知去何方
清原深養父 129
130 春はるを惜をしみて詠よめる 惜(を)しめども 留(とど)まら無(な)くに 春霞(はるかずみ) 歸(かへ)る道(みち)にし 立(た)ちぬと思(おも)へば
惜春而詠
心中雖惋惜 不得留春永常在 竊思春霞者 層湧立兮在歸途 發向出旅不復來
紀友則 130
131 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 聲絕(こゑた)えず 鳴(な)けや鶯(うぐひす) 一年(ひととせ)に 再(ふたた)びとだに 來(く)べき春(はる)かは
寬平御時后宮歌合時歌
啼聲勿途絕 鶯矣汝今當長鳴 啼鳴惜春者 今年春日雖不復 明年春日當再來
藤原興風 131
132 彌生(やよひ)の晦日(つごもりのひ)、花摘(はなつ)みより歸(かへ)りける女共(をうな)を見(み)て詠(よ)める 留(とど)むべき 物(もの)とは無(な)しに 儚(はかな)くも 散(ち)る花每(はなごと)に 類(たぐ)ふ心(こころ)か
彌生晦日,摘花歸途見群女而詠
花不永留枝 欲止女者不駐足 花儚女且儚 每見落花翩翩逝 心欲伴之是何情
凡河內躬恒 132
133 彌生(やよひ)の晦日(つごもりのひ)、雨(あめ)の降(ふ)りけるに、藤花(ふぢのはな)を折(を)りて人(ひと)に遣(つか)はしける 濡(ぬ)れつつぞ 強(し)ひて折(を)りつる 年(とし)の內(うち)に 春(はる)は幾日(いくか)も 有(あ)らじと思(おも)へば
彌生晦日,雨降之際,折藤花以餽贈
冒雨沾衣濕 慇勤折得藤花來 憂思今年中 春日尚餘幾時在 吾身青春亦闌珊
業平朝臣 在原業平 133
134 亭子院歌合(ていじゐんのうたあはせ)の歌(うた) 今日(けふ)のみと 春(はる)を思(おも)はぬ 時(とき)だにも 立(た)つ事易(ことやす)き 花蔭(はなのかげ)かは
亭子院歌合歌
春非獨今日 雖寓此由豈釋懷 今日春告終 惜春之情莫能止 離花蔭去豈容易
凡河內躬恒 134
古今和歌集 卷二 春歌 下 終
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