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古今和歌集卷第一 春歌 上
作者:佚名 文章来源:古今和歌 点击数: 更新时间:2007-10-27 10:02:07

001 舊年(ふるとし)に春立(はるた)ちける日詠(ひよ)める
 年(とし)の内(うち)に 春(はる)は來(き)にけり 一歲(ひととせ)を 去年(こぞ)とや言(い)はむ 今年(ことし)とや言(い)はむ

 舊年立春所詠

 歲內春既來 顧思過往年一載 非宜稱昨年 亦復豈合稱今年 徬惶不知謂何年
在原元方 001


002 春立(はるた)ちける日詠(ひよ)める
 袖漬(そでひ)ちて 掬(むす)びし水(みず)の 凍(こほ)れるを 春立(はるた)つ今日(けふ) の 風(かせ)や溶(と)くらむ

 立春之日所詠

 漬袖掬清水 寒日冰凍三尺餘 所以能汲者 蓋是今日立春時 暖暖東風解其冰
紀貫之 002


003 題知(だいし)らず
 春霞(はるかずみ) 立(た)てるや出(いづ)こ み吉野(よしの)の 吉野(よしの)の山(やま)に 雪(ゆき)は降(ふり)つつ

 題不知

 春日雖臨到 遍尋不見春霞立 今觀御吉野 吉野山中雪紛紛 何日纔得見春意
佚名 003


004 二條后(にでうのきさき)の春(はる)の始(はじ)めの御歌(おほむうた)
 雪(ゆき)の内(うち)に 春(はる)は來(き)にけり 鶯(うぐひす)の 凍(こほ)れる涙(なみだ) 今(いま)や溶(と)く覧(らむ)

 二條后初春御歌

 皓皓殘雪中 不覺曆上春已臨 待春谷中鶯 寒中凍淚今將溶 鳥囀出谷可聞乎
二條后藤原高子 004


005 題知(だいし)らず
 梅(むめ)が枝(え)に 來(き)ゐる鶯(うくひす) 春掛(はるか)けて 鳴(な)けども今(いま)だ 雪(ゆき)は降(ふり)りつつ

 題不知

 梅樹枝頭梢 黃鶯待春啼嚦嚦 鶯囀遍谷間 今時雪降仍紛紛 幾時方逢春暖意
佚名 005


006 雪(ゆき)の木(き)に降(ふ)り掛(か)かれるを詠(よ)める
 春立(はるた)てば 花(はな)とや見(み)らむ 白雪(しらゆき)の 掛(か)かれる枝(えだ)に 鶯(うぐひす)の鳴(な)く

 詠降雪掛枝頭

 時逢初春臨 枝頭殘雪似咲花 白雪掛樹梢 點落林頭艷比華 鶯醉其觀忙啼春
素性法師 006


007 題知(だいし)らず
 心指(こころざ)し 深(ふか)く染(そ)めてし 折(を)りければ 消(き)えあへぬ雪(ゆき)の 花(はな)と見(み)ゆらむ

或人(あるひと)の曰(いは)く:「前太政大臣(さきのおほきおほいまうちぎみ)の歌也(うたなり)。」

 題不知

 赤心且志誠 篤念盼春折殘枝 枝上餘積雪 春雪不溶綴梅枝 梅雪點點看似花

或人曰:「前太政大臣歌也。」按,前太政大臣,此謂藤原良房。
佚名 007


008 二條后(にでうのきさき)の春宮(とうぐう)の御息所(みやすどころ)と聞(き)こえける時(とき)、正月三日御前(むつきのはるか)に召(め)して、仰(おほ)せ言有(ごとあ)る間(あひだ)に、日(ひ)は照(て)りながら雪(ゆき)の頭(あたま)に降(ふ)り掛(か)かりけるを詠(よ)ませ給(たま)ひける
 春(はる)の日(ひ)の 光(ひかり)に當(あ)たる 我(わ)なれど 頭(か)の雪(ゆき)と なるぞ侘(わ)びしき

 方二條后尚為春宮御息所之時,正月三日,召吾于御前,有仰言之間, 日照而雪降,掛吾頭上之所命詠

 正月三日春 煦煦春光照我身 其時雪亦降 雪掛白頭白上白 不覺空嘆光陰老
文屋康秀 008


009 雪(ゆき)の降(ふ)りけるを詠(詠)める
 霞立(かすみた)ち 木(こ)の芽(め)もはるの 雪降(ゆきふ)れば 花無(はなな)き里(さと)も 花(はな)ぞ散(ち)りける

 詠雪降

 春霞層湧立 木芽既發告春臨 時若逢雪降 未及花咲花已落 無花里中亦散華

紀貫之 009


010 春(はる)の初(はじ)めに詠(よ)める
 春(はる)やとき 花(はな)や遅(おそ)きと 聞(き)き分(わ)かむ 鶯(うぐひす)だにも 鳴(な)かずもある哉(かな)

 初春所詠

 春臨花未咲 孰知是今春來早 抑花咲遲耶 徬徨舉首問黃鶯 無奈黃鶯亦不鳴

藤原言直 010


011 春(はる)の初(はじ)めの歌(うた)
 春來(はるき)ぬと 人(と)は言(い)へども 鶯(うぐひす)の 鳴(な)かぬ限(かぎ)りは あらじとぞ思(おも)ふ

 初春之歌

 年明春來矣 人人交言告春臨 然鶯未曾囀 一日不聞鶯啼春 絲毫無感春來意

壬生忠岑 011


012 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた)
 谷風(たにかぜ)に 溶(と)くる冰(こほり)の 隙間每(ひまごと)に 打(う)ち出(いづ)る波(なみ)や 春(はる)の初花 (はつはな)

 寬平御時后宮歌合時歌

 谷風帶春意 寒冰今為東風解 清水穿溶冰 波越冰隙湧為浪 浪花猶若春初華

源當純 012


013 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 承前
 花(はな)の香(か)を 風(かせ)の便(たよ)りに たぐへてぞ 鶯(うぐひす)さそふ 導(しるべ)にはやる

 寬平御時后宮歌合時歌

 梅花飄香雅 添乘春風吹里中 東風送花香 願誘黃鶯知春暖 為其道標送出谷

紀友則 013


014 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 承前
 鶯(うぐひす)の 谷(たに)より出(いづ)る 聲無(こゑな)くは 春來(はるく)る事(こと)を 誰(だれ)か知(し)らまし

 寬平御時后宮歌合時歌

 冬逝初春至 黃鶯出谷卻不囀 雖曰春既臨 至今未聞鶯啼春 誰人可知春已至

大江千里 014


015 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた) 承前
 春立(はるたて)てど 花(はな)も匂(にほ)はぬ 山里(やまざと)は 物憂(ものう)かる音(ね)に 鶯(うぐひす)ぞ鳴(な)く

 寬平御時后宮歌合時歌

 立春花未咲 遍尋山里無花香 豈謂春來耶 黃鶯憂兮鳴悽悽 空盪徒迴虛空裏

在原棟梁 015


016 題知(だいし)らず
 野邊近(のべちか)く 家居(いへゐ)しせれば 鶯(うぐひす)の 鳴(な)くなる聲(こゑ)は 朝(あさ)な朝(あさ)な聞(き)く

 題不知

 獨棲離喧囂 閑居郊外近野邊 黃鶯出幽谷 鳥鳴嚶嚶啼春至 每朝夢醒入耳聞

佚名 016


017 題知(だいし)らず
 春日野(かすがの)は 今日(けふ)はな燒(や)きそ 若草(わかくさ)の 妻(つま)も籠(こも)れり 我(われ)も籠(こも)れり

 題不知

 青青春日野 還願今日勿焚之 野上若嫩草 吾妻隱身藏其中 吾亦敝身蔭其內

佚名 017


018 題知(だいし)らず
 春日野(かすがの)の 飛火(とぶひ)の野守(のもり) 出(い)でて見(み)よ 今幾日(いまいくか)ありて 若菜摘(わかなつ)みてむ

 題不知

 青青春日野 掌飛烽火野守者 請出野外瞥 至今而後消幾日 方得嘗春摘若菜

佚名 018


019 題知(だいし)らず
 深山(みやま)には 松(まつ)の雪(ゆき)だに 消(き)え無(な)くに 都(みやこ)は野邊(のべ)の 若菜摘(わかなつ)みけり

 題不知

 蒼鬱深山裏 松上餘雪未消融 積雪彌更厚 反觀都中人里間 野邊若菜已可摘

佚名 019


020 題知(だいし)らず
 梓弓(あづさゆみ) 押(お)してはるさめ 今日降(けふふ)りぬ 明日(あす)さへ降(ふ)らば 若菜摘(わかなつ)みてむ

 題不知

 手執真梓弓 張弓拉矢更待春 今日春雨降 明日如亦得甘澍 若菜迎春當可摘

佚名 020


021 仁和帝(にんなのみかど)、親王(みこ)におましましける時(とき)に、人()に若菜貺(わかなたま)ひける御歌(おほんうた)
 君(きみ)が為(ため) 春(はる)の野(の)に出(い)でて 若菜摘(わかなつ)む 我(わ)が衣手(ころもで)に 雪(ゆき)は降(ふ)りつつ

 仁和帝【光孝天皇】尚為親王之時,受人贈若菜之御歌

 一心為吾君 罷身春野田原間 俯拾摘若菜 早春若菜生雪間 袖上細雪紛紛降

佚名 021


022 歌奉(うたてまつ)れ、と仰(おほ)せられし時(とき)、詠(よ)みて奉(たてまつ)れる
 春日野(かすがの)の 若菜摘(わかなつ)みにや 白妙(しろたへ)の 袖振(そでふ)りはへて 人(ひと)の行(ゆ)くらむ

 帝仰召文人奉歌之時所獻

 青青春日野 娘子至此摘若菜 揮振白妙袖 不辭千里路遙遠 探春摘得暖意歸

紀貫之 022


023 題知(だいし)らず
 春(はる)のきる 霞(かすみ)の衣(こもろ) 緯(ぬき)を薄(うす)み 山風(やまかぜ)にこそ 亂(みだ)るべらなれ

 題不知

 春神佐保姬 霞裳羽衣覆其身 緯絲輕薄甚 不意山風若吹拂 只臆神衣見吹亂

在原行平朝臣 023


024 寬平御時后宮(くわんぴやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあわせ)の歌(うた)
 常磐(ときは)なる 松(まつ)の翠(みどり)も 春來(はるく)れば 今一度染(いまひとし)ほの 色增(いろま)さりけり

 寬平御時后宮歌合時歌

 常磐永長青 萬年松樹翠綠者 每逢春來至 若猶一度浸染缸 蒼鬱之色更增鮮

源宗于朝臣 024


025 歌奉(うたてまつ)れ、と仰(おほ)せられし時(とき)、詠(よ)みて奉(たてまつ)れる
 我(わ)が背子(せこ)が 衣(こもろ)はるさめ 降(ふ)る每(ごと)に 野邊(のべ)の翠(みどり)ぞ 色增(いろま)さりける

 帝仰召文人奉歌之時所獻

 親親吾夫裳 張衣架上晾春風 每逢時雨降 野邊翠綠色更增 春意一日復日濃

紀貫之 025


026 歌奉(うたてまつ)れ、と仰(おほ)せられし時(とき)、詠(よ)みて奉(たてまつ)れる 承前
 青柳(あをやぎ)の 絲(いと)よりかくる 春(はる)しもぞ 亂(みだ)れて花(はな)の 綻(ほころ)びにける

 帝仰召文人奉歌之時所獻

 楊柳葉青青 如搓青絲掛枝頭 時下春風拂 颳起垂絲乘風飛 百花亂綻正如是

紀貫之 026


027 西大寺(にしのおほてら)の陲(ほとり)の柳(やぎ)を詠(よ)める
 淺綠(あさみどり) 絲縒(いとよ)り掛(か)けて 白露(しらつゆ)を 玉(たま)にも貫(ぬ)ける 春(はる)の柳(やぎ)か

 詠西寺邊陲柳

 新芽發翠綠 柳猶紡絲垂枝上 白露似玉珠 露凝柳葉絲串玉 婀娜春柳風光好

僧正遍昭 027


028 題知(だいし)らず
 百千鳥(ももちどり) 囀(さへづ)る春(はる)は 物每(ものごと)に 改(あらた)まれども 我(われ)ぞ古(ふ)り行(ゆ)く

 題不知

 百千叢群鳥 迎風自樂啼新春 所見所聞者 每每一革新氣象 老態者獨吾一人

佚名 028


029 題知(だいし)らず
 遠近(をちこち)の 活計(たづき)も知(し)らぬ 山中(やまなか)に 覺束(おぼつか)なくも 呼子鳥哉(よぶこどりかな)

 題不知

 遠近遍徘徊 方計處處不得尋 翁鬱此山中 毫無覺束所聞者 唯有呼子鳥鳴哉

佚名 029


030 雁(かり)の聲(こゑ)を聞(き)きて、越(こし)へ罷(まか)りにける人(ひと)を思(おも)ひて詠(よ)める
 春來(はるく)れば 雁歸(かりかへ)るなり 白雲(しらくも)の道(みち) 行(ゆ)き振(ぶ)りに 言(こと)や傳(つて)やまし

 聞歸雁之鳴,思念罷越之人而詠

 冬去新春至 歸雁鳴聲當可聞 雁開白雲路 翱翔太空驅越地 可為吾人傳書乎

凡河內弓恒 030


031 歸雁(かへるかり)を詠(よ)める
 春霞(はるかずみ) 立(た)つを見捨(みす)てて 行(ゆ)く雁(かり)は 花無(はなな)き里(さと)に 住(す)みやならへる

 詠歸雁

 時逢春霞起 捨霞不顧今飛去 雁紛歸北國 思惟北地無花里 想是雁兒熟住乎

伊勢 031


032 題知(だいし)らず
 折(を)りつれば 袖(そで)こそ匂(にほ)へ 梅花(むめのはな) 有(あ)りとや此處(ここ)に 鶯(うぐひす)の鳴(な)く

 題不知

 惋花其折枝 則其殘香留袖中 此處實無花 吾意梅花彷彿在 君不聞鶯啼花乎

佚名 032


033 題知(だいし)らず
 色(いろ)よりも 香(か)こそ憐(あは)れと 思(おも)ほゆれ 誰(た)が袖觸(そでふ)れし 屋戶(やど)の梅(むめ)ぞも

 題不知

 時人翫花色 吾思其香更可憐 誰人來屋戶 能揮袖兮觸庭梅 留餘香在保偲怜

佚名 033


034 題知(だいし)らず
 屋戶近(やどちか)く 梅花植(むめのはなう)ゑじ 味氣無(あぢきな)く 待(ま)つ人(ひと)の香(か)に 過(あやま)たれけり

 題不知

 庭先近屋戶 園中不宜植梅花 梅花飄芬芳 花香好似良人味 誤作人歸空歡喜

佚名 034


035 題知(だいし)らず
 梅花(むめのはな) 立寄(たちよ)る許(ばかり) ありしより 人(ひと)の咎(とが)むる 香(か)にぞ滲(し)みぬる

 題不知

 梅花華盛開 稍靠其傍須臾許 他人咎我曰 自誰身上惹芬芳 實是梅香滲吾身

佚名 035


036 梅花(むめのはな)を折(を)りて詠(よ)める
 鶯(うぐひす)の 笠(かさ)に縫(ぬ)ふと云(い)ふ 梅花(むめのはな) 折(を)りて餝(かざ)さむ 老(お)い隱(かく)るやと

 折梅花而詠 此歌承一零八一首。

 鶯折青柳枝 逢其柳葉為梅笠 吾今翫梅花 仿鶯折枝簪首上 願能稍隱鐘老態

東三條左大臣源常 036


037 題知(だいし)らず
 他所(よそ)にのみ 憐(あは)れとぞ見(み)し 梅花(むめのはな) 飽(あ)かぬ色香(いろか)は 折(を)りてなりけり

 題不知

 他所生梅花 遠觀眺之甚可憐 近趨翫梅花 色香更是惹憐愛 興不能止攀其枝

素性法師 037


038 梅花(むめのはな)を折(を)りて人(ひと)に贈(おく)りける
 君(きみ)ならで 誰(たれ)にか見(み)せむ 梅花(むめのはな) 色(いろ)をも香(か)をも 知(し)る人(ひと)ぞ知(し)る

 折梅贈思人

 獨有君一人 折枝還為誰所見 春日梅花咲 其色其香幾絢爛 不遇伯樂不遇知

紀友則 038


039 暗部山(くらぶやま)にて詠(よ)める
 梅花(むめのはな) 匂(にほ)ふ春(はる)べは 暗部山(くらぶやま) 闇(やみ)に越(こ)ゆれど 徵(しる)くぞ有(あ)りける

 於暗部山所詠 暗部山、或作暗布山。鞍馬山古名,或云貴船山古名。

 梅花綻芬芳 花香四溢報春意 暗部山如名 其山仍在暗闇中 仍是難隱春香徵

紀友則 039


040 月夜(つきよ)に、梅花(むめのはな)を折(を)りてと、人(ひと)の言(い)ひければ、折(を)るとて詠(よ)める
 月夜(つきよ)には それとも見(み)えず 梅花(むめのはな) 香(か)を尋(たず)ねてぞ 知(し)るべかりける

 月夜中,人盼折梅相贈,遂折枝而詠

 月耀如晴雪 花色亦白難可辨 夜中探梅花 暗香浮動匂可尋 探得梅枝贈思人

凡河內弓恒 040


041 春夜(はるのよ)、梅花(むめのはな)を詠(よ)める
 春夜(はるのよ)の 闇(やみ)は文無(あやな)し 梅花(むめのはな) 色(いろ)こそ見(み)えね 香(か)やは隱(かく)るる

 春夜詠梅花

 春夜闇無理 舉目視之無所見 欲探梅花者 色雖褪闇不可見 暗香浮動豈得隱

凡河內弓恒 041


042 初瀨(はつせ)に詣(まう)づる每(ごと)に宿(やど)りける人(ひと)の家(いへ)に、久(ひさ)しく宿(やど)らで、程經(ひどへ)て後(のち)に至(いた)れりければ、斯(か)の家(いへ)の主(あるじ)、斯(か)く定(さだ)か似(に)なむ宿(やど)りは有(あ)る、と言(い)ひ出(い)だして侍(はべり)ければ、其處(そこ)に立(た)てりける梅花(むめのはな)を折(を)りて詠(よ)める
 人(ひと)はいさ 心(こころ)も知(し)らず 故里(ふるさと)は 花(はな)ぞ昔(むかし)の 香(か)に匂(にほ)ひける

 每詣初瀨長谷寺時所宿之家有之,而久未借宿。稍頃重訪,則彼家主人云:「欲宿戶者,實有之。」遂折其處梅花而詠

 人心每浮動 變化無常不知衷 今日訪故地 不知人心依舊否 惟有花香猶往昔

紀貫之 042


043 水畔(みづのほとり)に梅花咲(むめのはなさ)けりけるを詠(よ)める
 春每(はるごと)に 流(なが)るる河(かは)を 花(はな)と見(み)て 折(を)られぬ水(みづ)に 袖(そで)や濡(ぬ)れなむ

 詠水畔梅花咲

 春來萬象新 河畔流水映咲華 花影好似實 俯身欲攀水中枝 折花不得沾袖濕

伊勢 043


044 水畔(みづのほとり)に梅花咲(むめのはなさ)けりけるを詠(よ)める
 年(とし)を經(へ)て 花(はな)の鏡(かがみ)と 成(な)る水(みづ)は 散(ち)り掛(か)かるをや 曇(くも)ると云(い)ふらむ

 詠水畔梅花咲

 經年累月間 水鏡映花似有曇 不似惹塵埃 花落水中零波上 能謂落塵曇鏡乎

伊勢 044


045 家(いへ)に在(あ)りける梅花(むめのはな)の散(ち)りけるを詠(よ)める
 暮(く)ると明(あ)くと 目(め)かれぬものを 梅花(むめのはな) 何時(いつ)の人間(ひとま)に 移(うつ)ろひぬらむ

 詠家中梅花落

 日暮兮夜明 目不轉睛恐枯逝 可怜梅花者 人稍轉瞬須臾間 俄然移落已悄逝

紀貫之 045


046 寬平御時后宮(くわんにやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあはせ)の歌(うた)
 梅(むめ)が香(か)を 袖(そで)に移(うつ)して 留(とど)めてば 春(はる)は過(す)ぐとも 形見(かたみ)ならまし

 寬平御時后宮歌合之歌

 梅香飄芬芳 如得移薰吾袖中 能得殘香留 一朝春過花謝了 仍保餘韻翫花情
佚名 046


047 寬平御時后宮(くわんにやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあはせ)の歌(うた)
 散(ち)ると見(み)て あるべき物(もの)を 梅花(むめのはな) うたて匂(にほ)ひの 袖(そで)に留(と)まれる

 寬平御時后宮歌合之歌

 花落直須落 惋之宜觀不宜折 偷攀梅花枝 殘香勾袖拂難卻 每嗅徒增傷悲情
素性法師 047


048 題知(だいし)らず
 散(ち)りぬとも 香(か)をだに殘(のこ)せ 梅花(むめのはな) 戀(こひ)しき時(とき)の 思(おも)ひい出(で)にせむ

 題不知

 木花雖移落 如能留得餘芳在 今日梅花散 他日眷戀故華時 還得翫薰作追憶

佚名 048


049 人(ひと)の家(いへ)に植(う)ゑたりける櫻(さくら)の、花咲(はなさ)き始(はじ)めたりけるを見(み)て詠(よ)める
 今年(ことし)より 春知(はるし)りそむる 櫻花(さくらばな) 散(ち)ると云(い)ふ事(こと)は 習(な)はざらなむ

 見人庭中植櫻花咲而詠

 櫻花告春臨 今年至此初綻放 告春也櫻花 願念汝咲常磐在 不冀憶汝有謝時

紀貫之 049


050 題知(だいし)らず
 山高(やまたか)み 人(ひと)も好(すさ)めぬ 櫻花(さくらばな) 甚(いた)くな侘(わ)びそ 我見榮(われみは)やさむ

又(また)は、里遠(さととほ)み、人(ひと)も好(すさ)めぬ、山櫻(やまざくら)。

 題不知

 山高路遙遠 無人就近翫憐賞 櫻花莫悲哀 同是孤高寂寥者 我將為汝作見榮

又作:「山里遠塵囂,無人就近翫憐賞,山櫻莫哀愁,同是孤高寂寥者,我將為汝作見榮。」
佚名 050


051 題知(だいし)らず
 山櫻(やまざくら) 我(わ)が見(み)に來(く)れば 春霞(はるがすみ) 峰(みね)にも尾(を)にも 立(た)ち隱(かく)しつつ

 題不知

 欲翫山櫻者 吾不辭遠驅來賞 春霞層層湧 嶽峰丘陵聳山中 幽隱山櫻阻吾興

佚名 051


052 染殿后(そめどののきさき)の御前(おまへ)に、花瓶(はながめ)に櫻花(さくらのはな)を插(ささ)せ給(たま)へるを見(み)て詠(よ)める
 年(とし)ふれば 齡(よはひ)は老(お)いぬ 然(しか)はあれど 花(はな)をし見(み)れば 物思(ものおも)ひも無(な)し

 於染殿后御前見后將櫻花插諸花瓶而詠

 經年累月間 馬齒徒長齡遂老 今見吾家女 如花滿開似玉者 所惱物思盡消散

前太政大臣 藤原良房 052


053 渚院(なぎさのゐん)にて櫻(さくら)を見(み)て詠(よ)める
 世中(よのなか)に 絕(た)えて櫻(さくら)の 無(な)かりせば 春(はる)の心(こころ)は 長閑(のどけ)からまし

 見渚院庭櫻而詠

 若夫此世中 不曾有櫻存之者 春日雖臨之 世人春心何從去 無櫻焉能得閑散

在原業平朝臣 053


054 題知(だいし)らず
 石走(いしばし)る 瀧無(たきな)くもがな 櫻花(さくらばな) 手折(たを)りてもこむ 見(み)ぬ人(ひと)の為(ため)

 題不知

 石上甚湍急 但願激流能停歇 春櫻無限好 欲得攀枝歸鄉里 只為都人未見之

佚名 054


055 山櫻(やまのさくら)を見(み)て詠(よ)める
 見(み)てのみ耶(や) 人(ひと)に語(かた)らむ 櫻花(さくらばな) 手每(てごと)に折(を)りて 家(いへ)づとにせむ

 見山櫻而詠

 一瞥此美景 欲述此情冀語人 人手折其枝 攀得櫻花歸家里 贈人詠物敘風光

素性法師 055


056 花盛(はなざか)りに、京(きやう)を見遣(みや)りて詠(よ)める
 見渡(みわた)せば 柳櫻(やなぎさくら)を こき混(まぜ)て 都(みやこ)ぞ春(はる)の 錦(にしき)なりける

 花盛之時,放眼眺京而詠

 放眼望京師 青柳紡絲春櫻咲 兩兩相參雜 滿城櫻柳織旖旎 平安三月春似錦

素性法師 056


057 櫻花(さくらのはな)の下(もと)にて、年(とし)の老(お)いぬる事(こと)を歎(なげ)きて詠(よ)める
 色(いろ)も香(か)も 同(おな)じ昔(むかし)に 櫻(さくら)めど 年(とし)ふる人(ひと)ぞ 改(あらた)まりける

 櫻下嘆年老而詠

 論色或論香 年年歲歲花相似 櫻花恒如此 只嘆時光催人老 歲歲年年人不同

紀友則 057


058 折(を)れる櫻(さくら)を詠(よ)める
 誰(たれ)しかも 尋(と)めて折(を)りつる 春霞(はるがすみ) 立(た)ち隱(かく)すらむ 山櫻(やまのさくら)を

 詠攀櫻

 誰人不辭勞 遍尋深山攀折枝 春霞層層湧 瀰漫山中匿山櫻 是誰苦尋攀相贈

紀貫之 058


059 歌奉(うたたてまつ)れ、と仰(おほ)せられし時(とき)に、詠(よ)みて奉(たてまつ)れる
 櫻花(さくらばな) 咲(さ)きにけらしな 足引(あしひ)きの 山(やま)の峽(かひ)より 見(み)ゆる白雲(しらくも)

 帝仰召文人奉歌之時所獻

 櫻花兮盛開 滿面旖旎織春錦 高險滯足跡 群山眾嶽峽谷間 所見白雲豈非櫻

紀貫之 059


060 寬平御時后宮(くわんにやうのおほんとききさいのみや)の歌合(うたあはせ)の歌(うた)
 御吉野(みよしの)の 山邊(やまべ)に咲(さ)ける 櫻花(さくらばな) 雪(ゆき)かとのみぞ 誤(あやま)たれける

 寬平御時后宮歌合之歌

 葦垣御吉野 群山片野花滿開 櫻花咲正盛 一面花色遍眼前 誤當今日雪紛紛
紀友則 060


061 彌生(やよひ)に閏月有(うるふづきあ)りける年詠(としよ)みける
 櫻花(さくらばな) 春加(はるくは)れる 年(とし)だにも 人(ひと)の心(こころ)に 飽(あか)かれやはせぬ

 詠彌生閏月年

 櫻花逢春咲 今年彌生遇閏月 春日長以往 人心亦畏難滿喫 吾願飽足翫櫻樂
伊勢 061


062 櫻花(さくらのはな)の盛(さか)りに、久(ひさ)しく訪(と)はざりける人(ひと)の來(き)たりける時(とき)に詠(と)みける
 徒也(あだなり)と 名(な)にこそ立(た)てれ 櫻花(さくらばな) 年(とし)に稀(まれ)なる 人(ひと)も待(ま)ちけり

 盛櫻之際,久疏未訪者造來之時所詠

 世間評吾者 薄情無常心易改 櫻花常遞嬗 雖易俄落不長久 仍候稀客年復年

佚名 062


063 返(かへ)し
 今日來(けふこ)ずは 明日(あす)は雪(ゆき)とぞ 降(ふ)りなまし 消(き)えずはありとも 花(はな)と見(み)ましや

 返歌 承前

 今日不來者 明日浩雪降紛紛 望眼盡積雪 縱使雪下花長在 何能翫花憐思人

業平朝臣 在原業平 063


064 題知(だいし)らず
 散(ち)りぬれば 戀(こ)ふれど驗(しるし) 無(な)き物(もの)を 今日(けふ)こそ櫻(さくら) 折(を)らば折(を)りてめ

 題不知

 一朝花將謝 戀慕之徵無所存 焦慮盡徒然 不若今日決堅意 當攀櫻枝值須攀

佚名 064


065 題知(だいし)らず
 折取(をりと)らば 惜(を)しげにもあるか 櫻花(さくらばな) いざ宿(やど)かりて 散(ち)る迄(まで)は見(み)む

 題不知

 欲折櫻花去 惜其可伶不忍為 櫻花盛今時 儵然起興花畔宿 翫花直至花散盡

佚名 065


066 題知(だいし)らず
 櫻色(さくらいろ)に 衣(ころも)は深(ふか)く 染(そめ)て著(き)む 花(はな)の散(ち)りなむ 後(のち)の形見(かたみ)に

 題不知

 櫻色無限美 深染其色於吾杉 他日花散時 能為追憶憶昔往 睹物思情花盛時

紀有朋 066


067 櫻花(さくらのはな)の咲(さ)けりけるを見(み)に、參(ま)うできたりける人(ひと) に、詠(よ)みて贈(おく)りける
 吾(わ)が屋戶(やど)の 花見(はなみ)がてらに 來(く)る人(ひと)は 散(ち)りなむ後(のち)ぞ 戀(こひ)しかるべき

 贈罷來賞櫻人所詠

 寒舍庭中櫻 客欲翫花而來者 今日翫花人 他日花落凋零後 當戀其人悲寂寂

凡河內弓恒 067


068 亭子院歌合(ていじゐんのうたあはせ)の時(とき)、詠(よ)める
 見(み)る人(ひと)も 無(な)き山里(やまさと)の 櫻花(さくらばな) 他(ほか)の散(ち)りなむ 後(のち)ぞ咲(さ)かまし

 亭子院歌合時所詠

 遠離俗世間 窮在深山無人識 孤芳櫻自賞 莫若他日百花零 更待其時展咲顏

伊勢 068

古今和歌集 卷一 春歌 上 終

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